会員の中村亨さんより「黒人」「人種」の観点でヘミングウェイ作品を読み解く御著書が届きました。
中村亨著 『かき乱す<黒人>の声――トゥーマー、アンダソン、ウィンダム・ルイスとヘミングウェイ』(論創社、2024年)
折しも米国のヘミングウェイ学会が発行する学会誌The Hemingway Review の2023年秋号は“Hemingway in Black and White”と題された特別号で、ヘミングウェイ作品を「人種」の観点で論じる論文が一気に6本掲載されました。7月にスペインで行われた国際学会でもその編著者が登壇するセッションが行われ、これまで特に米国では十分に論じられてきたとは言えないヘミングウェイ作品における黒人表象について多くの意見が交わされました。
こうした動きよりはるか以前から人種の観点、特に黒人表象について論文を長く書かれてきた中村さんですが、今回の御著書では序章と続く6章のうち、実に4章がヘミングウェイ作品分析にあてられています。『春の奔流』を1920年代の文化闘争に位置づけてその意味を論じる第三章、「ポーター」の草稿研究に基づく分析が展開される第四章、『武器よさらば』のフレデリックと黒人の接続を読む迫力の第五章、そして白人男性に強いられる自己抑制の規範をテクスト内でいわば脱構築する声として黒人を位置づける第六章。多くの新たな指摘、知見、そして示唆に溢れた研究書です。
中村さん、ご出版おめでとうございます!
(文責:小笠原亜衣)