日本ヘミングウェイ協会2019年5月 ワークショップ

 

■日時:2019年5月25日(土)10時〜12時30分

■場所:安田女子大学 9号館5階9523教室(広島県広島市安佐南区安東6丁目13番1号)

■タイトル:『「兵士の故郷」比較再読―さまざまな戦場帰還の物語』

■メンバー

司会・講師:柳沢 秀郎(名城大学)
講師:山本 裕子 (千葉大学)
講師:畠山  研 (八戸工業大学)
講師:菅井 大地 (松山大学)

■概 要

皆さんこんにちは、今回ワークショップ・コーディネーターを務めさせていただく柳沢です。なぜ今「兵士の故郷」?と思った方のために申し上げますが、私がヘミングウェイ研究を始めるきっかけになった作品だったからという極めて個人的な理由です。院生時代にたまたま「兵士の故郷」を読んだ私は、戦争経験もないのに、なぜか主人公クレブスの心境に強烈に共感したわけです。

とは言え、この世に「戦場」というものが存在し、ヒトがそこへ行き、そこから戻ってくるという有史以前からの営みが今日も続いている以上、このテクストは幸い再読の根拠を欠くことはありません。最近では2017年に、アフガンの従軍記者だったセバスチャン・ユンガーがTED Talksで「孤立社会が帰還兵の社会復帰を阻んでいる」と題し、帰還兵のPTSD発症と自殺者における近年の増加傾向の要因は、戦場でのショッキングな体験よりも、帰還後の社会環境にあると指摘しています。帰還兵の心の問題に対し、戦場という「非日常」ではなく、むしろ彼らを待ち受ける「日常」にその要因を求めるこの視点は、ヘミングウェイ研究においてはThomas Strychacz が1996年の論文で指摘しているクレブスの故郷の「偏狭性 “provincialism”」 (73, The Cambridge Companion to Hemingway. Ed. Scotto Donaldson. Cambridge UP, 1996.) の議論に早くも認められますが、この問題は軍隊(に類する組織)を有するあらゆる国家の社会問題として捉え直すことも可能でしょう。

こうした視点も踏まえ、今回のワークショップでは「戦場帰還」を文脈に持つ他作家のテクストと比較しながら、「兵士の故郷」を再読します。最初に、山本裕子氏がヘミングウェイとしばしば対置される同時代作家フォークナーの小説『兵士の報酬』(1926)を取り上げ、両作品に登場する虚構写真の機能に注目して、両作家による戦後小説のスタイルの違いについて論じます。次いで、畠山研氏がイギリス文学であるヴァージニア・ウルフの『ダロウェイ夫人』(1925) とともに「兵士の故郷」を読むことで帰還兵の「居場所」(あるいは「ホーム」)に潜む問題を考えます。続いて柳沢が、ヘミングウェイが書簡で頻繁に言及しているエーリヒ・レマルクの『西部戦線異状なし』(1929) を取り上げ、クレブスが出兵した第一次大戦を敵側で戦っていた若きドイツ兵主人公ボメイルの帰還と比較しながら、若き帰還兵たちが内在させているcomradeship と日常回帰の関係を考察します。最後に、菅井大地氏がロバート・ストーンのDog Soldiers (1974) を取り上げ、ベトナム戦争から帰還した従軍記者主人公と「兵士の故郷」のクレブスとに共通してみられる「戦争を語ることの不可能性」に着目し、戦場/故郷といった二項対立的場所の境界が攪乱される可能性について検討します。

時代や視点の異なるこうしたさまざまな「帰還の物語」は、「兵士の故郷」を多角的に読む視座を提供し、「兵士の故郷」の知られざる布石を回収してくれることでしょう。(文責:柳沢秀郎)

■懇親会のお知らせ

25日18時頃から懇親会(会費5000円前後)を予定しておりますので、ふるってご参加ください。懇親会への参加については事務局(hemingwayjapan@yahoo.co.jp)までメールでお申し込みください。会場等については、お申込みいただいた方に直接お知らせいたします。

懇親会申し込みの締め切りは5月10日(金)です。

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※お食事は食堂を利用できるそうです。

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